相次ぐ品質・データ偽装問題から学ぶ平時からの予防策

blog_jan_2019ここ数年、企業における品質・データ偽装問題の発覚が相次いできましたが、残念ながら2018年も例外ではありませんでした。

この問題は、製造業を中心にしてはいますが、しかるべき資格を持たずに役務を提供するようなパターンを想定して頂ければお分かりのとおり、製造業以外の業種においても他人事ではありません。

そこで、本稿では、相次ぐ品質・データ偽装問題を契機として、不正・不祥事と向き合う社内の議論の活発化に繋げて頂くことを期して、この問題に有効な以下の3つの予防策について論じたいと思います12

  1. 現場担当者に届く品質コンプライアンス教育
  2. 閉鎖的な集団・組織からの情報吸い上げとコミュニケーションの場の積極的提供
  3. 守れる価格・守れる仕様・守れる納期で受注しているのかの再点検

1.現場担当者に届く品質コンプライアンス教育

現場担当者に対する教育が、品質・データ偽装問題に対する平時の予防策の一つであることは言うまでもありません。

企業の法務・コンプライアンス部門の方々とお話をしていて、社内教育の何よりのポイントは、研修やマニュアルなどを受け手に見合ったものにすることだと痛感します。品質・データ偽装でも同じことが言え、現場担当者への教育活動においては、伝えるべきことを具体的に、できるだけ分かり易く、何度も繰り返し伝えることが大事です。現場は日々時間やコストとの戦いです。そのような状況下で品質コンプライアンスを常に意識してもらうためには、企業のトップから現場のリーダーまで様々な方から分かり易いメッセージを繰り返し発していただくことが必要になります。図や絵を用いたビジュアル化、具体的なケーススタディやロールプレイも有効です。

多くの現場担当者は、試験データを改ざんしたり資格のない者が検査を行うなどの行為を「やってはいけない」ことは分かっています。にもかかわらず、品質データ偽装に及んでしまうのは、「品質・データ偽装をやってしまった場合にどうなるのか」(インパクト、波及効果)についての正しい認識が欠けているからです。現場担当者に対する品質コンプライアンス教育においては、品質・データ偽装が発生することにより、数十億・数百億円の損害が発生し、場合によっては事業撤退や倒産に至るということを強調する必要があるというのが実感です。

別の角度から、現場一人一人の自発性を引き出すという観点も重要です。ルールや教育というものは、どうしても「上から押し付けられた感」が出やすいものです。そのような押し付け感が漂ってしまうと、真の意味では現場に浸透しづらくなります。班ごとに月次でコンプライアンス標語を決めてもらう、朝礼や昼休憩後に輪番で具体的取り組みを発表させるなど、現場の自発的な動きを引き出すような工夫・仕組み作りで「押しつけられた感」を軽減することが有効です。

もちろん、「押し付け」すらない「丸投げ」も避けるべきです。テキストを配布して自主的に読むよう指示をするだけ、研修ビデオをいつでも見られるようにして視聴を求めるが期限の設定もなくフォローアップテストもしないというのが「丸投げ」の典型です。こうした手法では、いつまでに誰がどれだけ達成できるのかという進捗管理もできませんし、フィードバックがないため本人のモチベーションも上がりません。

このように現場担当者にルールを守ってもらうためにはどうしたらいいのか、一歩進んで、現場担当者が自らルールを守りたくなるためにはどうしたらいいのかということに心を砕いた教育活動の設計が重要です。

2. 閉鎖的な集団・組織からの情報吸い上げとコミュニケーションの場の積極的提供

品質・データ偽装の問題を論じるに際して、現場の閉鎖性から目を背けることはできません。とりわけ製造の現場においては、様々なバックグラウンドを持った多数の方が品質・納期などを守るために、通常より強い規律や上下関係が生じがちです。これに加え、固定化されやすい人事3や三交代制などの特殊な勤務体系も相まって、仲間意識、濃い人間関係が生まれます。

このような閉鎖性を伴う現場から、「実は検査結果を改ざんしています」というストレートなレポートは期待できません。現場で生じている不正がしかるべく報告されないという「情報の目詰まり」を防ぐためには、このような閉鎖性を踏まえ、どうしても積極的に情報を獲得しにいくことが必要になります。もちろん、内部通報制度の周知や実効性向上も重要です。しかし、筆者の実感としては、「ムラ社会」的な閉鎖的集団においては、内部通報制度はどうしても機能しにくいと感じます。より能動的に、管理者の側から現場に手を突っ込んで、積極的に問題状況を聞き働きかけていく必要があるのです。

具体的には、役員や部長クラスの管理者が朝礼やランチなどの場をうまく利用して現場担当者から話を聞く場を持つことなど接触の場を積極的に設けることも有効です。また、社内アンケートを実施して、こちらから現場に手を差し伸べて情報を積極的に取得する方法も検討に値します。

3. 守れる仕様・守れる納期・守れる価格で受注しているのかの再点検

価格、スピード、品質の面で、自社の実力を超えた受注をしてしまうことも品質・データ偽装の温床になります。国内外の競争に打ち勝たなければならないという営業サイドの厳しい事情があるとはいえ、自社のキャパシティを超えた受注をしてしまうと、プレッシャーや目先の利益を追いたいという気持ちから、製品が仕様を満たしていないのに満たしている顧客に報告したり行うべき検査を怠ったりするというインセンティブが生まれ、品質・データ偽装に繋がるのです。

逆に言えば、守れる仕様・守れる納期・守れる価格で受注するということ事態が品質・データ偽装問題の予防策となるわけです。このように実力を超えた受注がなされないようにするためには、まずは事業化ないし受注プロセスの点検が必要です。事業化ないし受注プロセスで、技術面、コスト面、生産能力面、調達面などあらゆる角度から、自社にとって受注可能であるのかをチェックできるプロセスの整備が必要です。品質保証部門・検査部門が、このプロセスにブレーキの役割としてしっかりと関与すべきで、それを規程・マニュアルなどにより担保すべきことはいうまでもありません。ただ、目を向けるべきより重要なポイントは、品質保証部門・検査部門はどうしても業績の数字を直接伸ばせるわけではないため、何の手立ても講じなければ、部門間での議論における発言力は弱体化しがちであるということです。それを防ぐためには、品質保証部門・検査部門の組織的な独立性を高め(例えば、品質保証部を社長直轄部署にする等)、かつ、これらの部門に優れた人材を配置しこれらの部門の発言力・交渉力を積極的に高める必要があります。

社内の部門間だけではなく顧客(取引先)との対外的な関係性にも注意を払わなければなりません。顧客との交渉を慎重に行い、守れる仕様・守れる納期・守れる価格での受注を推進していかなければならず、社内の実状がそうなっているのかを改めて点検をしてみる必要があります。

4. 結び~品質・データ偽装問題の根底にある「正しい」目的~

品質・データ偽装問題の根底には、いつも「正しい」目的が存在しています。業績向上、コスト低減、顧客満足、納期遵守といった、それ自体は当然に是認される「正しい」企業目標が、「『正しい』目的達成のためであれば、少々品質やデータを偽装してもよい(偽装せざるを得ない)」という甘い認識・誤った正当化を生み、品質・データ偽装の温床になるのです。

今回は、こうした誤りを平時から根気よく取り除くための施策をいくつかご紹介しました。どの予防策にも相応のコストや時間がかかることは言うまでもなく、そのことが平時の予防策の深化・徹底を阻んでいる面もあります。ここにおいて重要なことは、マネジメント層から現場に至るまで、不正・不祥事の予防策に人材や予算を割くことが、自社に何十億何百億という損害が発生する確率を減らすことにより、間接的に業績の維持・向上に繋がるという認識を共通にして頂くことにあると考えます。

本稿が、品質・データ偽装の予防策に関する議論を通じて、不正・不祥事と向き合う社内の議論を活発化して頂く一助になれば幸いです。

________________________

1. この内容は、筆者の直接・間接の経験も生かしたものですが、筆者ないし所属事務所が携わった特定の事案を想定したものではありません。

2.  本稿は、拙稿「品質・データ偽装の真因~共通する背景事情・原因分析から見る平時からの予防策~」月刊監査役690号(2019年1月号)69頁の一部について、要点を絞って再構成したものです。

3. 固定的な人事それ自体も不正の温床になり、平時からの予防策として効果的な人事ローテーションが求められます(前掲注2・拙稿72頁以下)。

Like this Article? Subscribe to Our Feed!

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *