リニア談合事件で改めて注目される平時からのメールモニタリングと社内リニエンシー制度

Catalyst_Five_Steps_to_Better_Oversight1 はじめに

リニア中央新幹線建設工事をめぐる談合事件で、東京地検特捜部は平成30年3月23日、独占禁止法違反(不当な取引制限)で、大手ゼネコン4社とその役職員2名を起訴しました。民間発注工事の談合で刑事責任が問われるのは初めてのことであり、そのこと自体も注目に値しますが、企業の危機管理を考える上で参考となるのは起訴された各企業が公表した再発防止策です。

新聞報道などでは、起訴された企業の一社が今回の起訴を受けて策定した再発防止策1(以下「本再発防止策」といいます。)が、同業者がいたら同窓会などであっても参加ができないとする非常に厳格な同業者との接触ルールを定めるものとして話題になっていましたが、本稿では、その点ではなく、再発防止策の中でもやや耳慣れない①内部監査部門による平時からのメールモニタリングと、②内部通報に関する社内リニエンシー制度を取り上げたいと思います2

2 平時からのメールモニタリング

本再発防止策には、「同業者が宛先及び発信元となっているメールについて、その内容を内部監査部門がチェック(AIの活用も検討)」とあります。

これは、内部監査部門において、特定の談合の疑いの生じていない平時から談合につながる、あるいは談合発見の端緒となる不審なメールがないかをチェックすることを指すものと思われます。

有事の不正調査では、もはやメール等の調査(デジタルフォレンジック)は必須のものとなりつつありますが、平時に恒常的に社内のメールをモニタリングする仕組みはまだ一般的ではなく、その意味で本再発防止策の導入は先進的な試みといえます3

従来、平時からのメールモニタリング導入に当たっては、運用のための人的・金銭的なコストという物理的な側面と、業務用メールとはいえ無制限にメールを監視することが従業員の士気に影響を与えないかといった心理的な側面が問題となり、これらが企業に平時のメールモニタリングの導入に二の足を踏ませてきたのではないかと思われます。

もっとも、これらの問題の主な解決策は実は共通しており、要するに(直接、担当者が目視する以外の方法で)リスクの高いメールをどのように効率的・合理的に選別するかということがキモになります。予め読むべきメールが絞られていれば、それを読む担当者の負担も軽減できますし、一定の合理的な方法によってリスクが高いと考えられるメールだけを選んでチェックしているのだと説明できれば、社内の不満・不安もある程度は収まるであろうと考えられるからです4

そうすると、次に「効率的・合理的に選別する」ための方法論が重要になります。従来、自社にとってコンプライアンスリスクの高い業務を行っている部署に絞った上で、一定のキーワード(社内用語や部署内の隠語を含む。)で検索を行って抽出を行う(それでも対象メールが多いようであれば、特定の個人に関するメールを選んでサンプリング)といった工夫がされてきましたが、定型的なキーワードが使われない不正の場合、十分な絞り込みができないことも多かったように思われます。この点で、近時、にわかに注目を集めているのが、本再発防止策でも言及されている「AIの活用」です。

この場面でのAIの利用というのは、要するに、探し出したいメールや自社の事業の関する不正が行われる際に用いられやすい言葉遣いなどのデータ(教師データ)をAIに与えて、それを元に社内の膨大なメールの中から関連性が高いと思われるメールを抽出させるというものです。抽出されたデータの中から、実際に関連性が高かったメールを学習させることで更に精度は向上していきます。

筆者の知るところ、こうしたAI検索の実用度は、まだ対象となる業態や見つけ出そうとする不正・異常の内容にも相当程度依存するようですが、不正調査の場面では既に実用化の段階にあり、今後、平時のメールモニタリングにおいても活用が進んでいくことは間違いがないでしょう。

3 社内リニエンシー制度

本再発防止策には、「内部通報制度の見直し(通報の義務化、社内リニエンシーの明記)」とあります。

「社内リニエンシー制度」とは、法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、その者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みをいいます。

今やほとんどの上場企業(及び相当程度の非上場企業)で導入が進んでいる内部通報制度ですが5、不正を最もよく知るはずの、当該不正に関与した従業員は、内部通報を行った場合の社内処分を恐れて通報に二の足を踏むことが大いに考えられます。そこで、そうした躊躇が生じないようにするために社内リニエンシー制度を導入してはどうかとの議論が近時盛んに行われています6

社内リニエンシー制度については、不正の発見可能性を高めるというメリットがある一方で、本来、減免すべきでない重大な不正であっても減免せざるを得ず、対外的な説明に窮するであるとか、首謀者のみがリニエンシー制度によって免責され、不正協力者のみが処分されることがあればかえって社内の士気を下げることになるなどといったデメリットが指摘されるところです。

もっとも、少なくとも、こうしたデメリットを上回るような重大な不正に関しては、導入をためらう理由はないものといえ、高額の課徴金と刑事罰のリスクを負う談合事案について、本再発防止策で社内リニエンシー制度が導入されるに至ったのも自然なことだといえます。

なお、今回の再発防止策は内部通報の義務化も定めており、いわばアメとムチの両面から内部通報制度の活用を図っている点にも留意が必要です。

_________________________________

  1. https://www.obayashi.co.jp/news/upload/img/20180514boushisaku.pdf
  2. 以下で取り上げる平時のメールモニタリングと内部通報制度について、より詳細には、森・濱田松本法律事務所編・『企業危機・不祥事対応の法務〔第2版〕』「第11章 平時からの体制整備」[山内洋嗣・矢田悠執筆担当](商事法務・2018))参照。
  3. なお、こうした仕組みが有効に働くためには、業務に関するやりとりを業務用メール以外(私用アドレス、LINE、slack等のチャットツール)で行わないとするなどの環境整備も必要となる点には留意が必要です。
  4. 本文記載の課題の他にそもそも大前提としてこうした平時のメールモニタリングがプライバシー侵害として違法にならないかも問題となります。もっとも、(詳細は省きますが)予め社内規則等を通じて予告した上で、必要かつ合理的な目的・範囲で行われる場合であれば、適法に実施可能であるというのが一般的な見解と思われます。
  5. 平成28年度に消費者庁が実施した調査によれば、従業員101~300人の企業では約4割、300〜1000人の企業では約7割、1000人超の企業では9割超が内部通報制度を導入しているとのことです(消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」参照)。
  6. 消費者庁が内部通報制度の活性化を企図して公表している「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(平成28年12月改正)では、社内リニエンシー制度について、(こうした制度を)「整備することも考えられる。」という形で導入を推奨しています。

Like this Article? Subscribe to Our Feed!

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *