ロボットに仕事を奪われる? いいえ、AIは弁護士の業務の質を大きく向上させるのです

Catalyst_Robots_Taking_Our_Jobs私たちの誰もが、以下のような脅威を耳にしたことがあるはずです。eディスカバリ業界では、人工知能(AI)を備えたロボットに弁護士の仕事を奪われる時代がまもなく到来する。2011年にニューヨークタイムズが『Armies of Expensive Lawyers, Replaced by Cheaper Software』という見出しの記事を書いており、タイムズですらこういう懸念に同調しているように見受けられました。

もっとも、同誌が書いたその記事は、表題のようなセンセーショナルなものではなく、「AIと機械学習ツールを活用することで、弁護士は作業負荷を軽減することができるが、これらが仕事を完全に奪うまでには至らない」という内容でした。さらに、この記事に続いて書いた同誌の『The End of Lawyers? Not So Fast』という記事では、前述の脅威論から、一段と距離を置いたソフトな意見を述べていました。

二つ目の記事の内容は、「最近の動きで見ると、テクノロジーの進歩と機械が人間から取って代わる仕事との相関は、悲観論者が考える以上に複雑で特別な意味合いがあることが新たな研究によって示されている」というものでした。

eディスカバリに関わる弁護士や企業にとって、この見解は重要な意味を持ちます。それは、eディスカバリ分野は、法律業務のなかで急激に活用度合いを高めている今日のAIにとって、事実上のゼロ地点だからです。多くの弁護士が初めて機械学習テクノロジーに遭遇したのは、テクノロジー支援型レビューやプレディクティブ・コーディングを使って仕事をした時です。これら二つのテクノロジーの活用は、法務分野全体で初めてAIが有効的に利用できることを示した画期的な事例だと言えます。

法務分野におけるAIの台頭

AIは、法務業界のいたるところで突然に導入されたように思えます。現在は、訴訟結果の予測を目的としたデューデリジェンス評価、リーガル・リサーチ、契約分析、判決要録分析業務で活用されています。こうした分野での利用は、必ずしもeディスカバリ分野におけるAIの利用の副産物であると言えません。結局のところ、AIはテクノロジーのあらゆる側面とすべての産業に浸透し始めているいま、eディスカバリ分野での活用がAIへの信頼を高め、法務においても広範囲にわたる分野での浸透に貢献したと考えることができます。

法務業界内で拡大が続くAIの活用範囲が新刊書に年代順で記載されており、これはまた、将来のAIの活用法を予測する情報となっています。論文Robots in Law: How Artificial Intelligence is Transforming Legal Servicesで、法務テクノロジー報道記者のジョアナ・グッドマンは、法務分野におけるAIの発達と利用状況を調査し、それが司法サービス提供者にどのような意味を持つのかについて考察しています。

同論文で彼女と彼女が紹介している専門家の間で一致している要点は、AIが弁護士の仕事を奪うことにはならず、むしろ仕事の効率化と生産性の向上に寄与することになる。これと同時に、AIは弁護士とその顧客に対するバリュー・プロポジションを変えることになり、AIの導入が早ければ早いほど多くのメリットを受けることができるであろう、 ということです。

グッドマンはさらに、「これまでの流れが示すものは、法務分野で現在適用されているAIは、司法サービスの内容を根底から変えてしまう進化の一部である可能性が高い。その理由は、AIは弁護士が行う仕事が何であるべきかという大前提を崩す(あるいはそのすべてを入れ換える)からではなく、バリュー・チェーンに変化をもたらし、その結果、司法サービスの調達、ビリングや利益の観点から法務のビジネスモデルを変えてしまうからである」と述べています。

eディスカバリのバリュー・チェーン

もしeディスカバリが、法務業界におけるAIにとってのゼロ地点であった見方が正しいのであれば、この事実はグッドマンの言う「バリュー・チェーンのシフト」という考え方を裏付けることなります。TAR(テクノロジー支援型レビュー)は、eディスカバリの事業を支援する多くの利点を持っていますが、それが好評を博した理由には経済的であることが挙げられます。つまり、大量のeディスカバリ関連文書のレビューをTARで行うことにより、顧客は大幅なコスト削減を実現し、弁護士は業務の効率性を著しく改善させることができるということです。

TAR導入の転換点(たぶん飛躍点とも言えるでしょうが)を探っていくと、2011年に遡ります。この年は、二人のeディスカバリ研究者、モーラ R.グロスマン(当時は弁護士、現ウォータールー大学研究教授)とゴードン V.コ―マック(ウォータールー大学インフォメーション検索グループの共同理事)が、TARプロセスによって2009年トレック・リーガル・トラックから抽出したデータを分析しました。両研究者は、関連性のある文書の発見に関して、TARは人間のレビューよりも効果的であるだけでなく費用の大幅な節減ができると結論付けました。

リッチモンド・ジャーナル・オブ・ロー・アンド・テクノロジー誌への論文で、二人は「概して言うと、文書のレビューに関しては、人の手による包括的なレビューが最も効果的であり、したがって最も自己防御的なアプローチである、という神話に断固として異議を唱えたい」と言う意見を述べました。さらに「テクノロジー支援型レビューの活用で、人の手による包括的なレビューよりも正確な結果の獲得が可能となる(実際に実現している)、しかもかなりの労働量を節約できる」と主張しました。二人の調査では、人の手によるレビューと比較して、TARは50倍のコスト削減が実現できるという結果を得ました。

この発表後間もなくして、Da Silva Moore v. Publicis Groupe」裁判で、米国治安判事のアンドリュー.J.ペックが、裁判所として史上初めてTARの利用を承認する見解を述べました。ペック判事は、TARを進行中の訴訟で利用することを認めただけでなく、他の方法よりも優れていることを広く支持し、その利用を強く促しました。判事は「テクノロジー支援型レビューは、他の利用可能な方法よりも優れていると思われる。したがって、適切な訴訟で利用されるべきだと考える」と評価しています。

eディスカバリにおけるAIの現状

前述のように、eディスカバリは機械学習テクノロジーを導入し、それを実質的に日常業務に組み込んだ法務業務の最初のセグメントでした。しかし、これが本レポートの結末ではありません。

TARを導入した当初の利用法は、訴訟用開示文書の作成に先だって各種文書をレビューすることでしたが、それ以降、この機能の利用分野は飛躍的に拡大しています。今日では、相手方の開示文書から「ホット」(目的に極めて近い)文書を検索する秘匿特権レビューや、コレクション(収集文書)の中から「ストーリ」を発掘する目的などで、より一般的に利用されています。(詳しくは、『TAR 2.0 Capabilities Allow Use in Even More E-Discovery Tasks』を参照してください)また、法コンプライアンス順守の監査業務の迅速化にTARを利用する企業もあります。

ごく最近の例として、カタリストは機械学習およびAIの機能を、自社の企業向けeディスカバリ・プラットフォームInsight Enterpriseに広範囲に組み込みました。Insight Enterpriseはセントラル・レポジトリを使い、企業の顧問弁護士によるその法務事案全般の効率的な管理を実現しています。新たな事案の発生に応じて、文書をコアレポジトリから読み込み、個々の案件サイトに掲示することができます。

Insight Enterpriseでは、機械学習を主に以下の2つの方法で使っています。1つは従来のレビュー業務です。個々の事案の範囲内で、企業の法務部はTARを、レビューする文書のランク付けや、レビューする全文書数の削減という従来型の利用法で活用しています。

しかし機械学習は、Insight Enterpriseのプラットフォーム全体にわたり活用することもできます これは、顧問弁護士やその外部弁護団は、TARと機械学習ツールを調査、早期の案件査定、個々の案件を支援する文書の発見に利用することができるという意味です。したがって、より広範囲の利用案件での業務において、TARの優れた効率性と時間の節約という強みが発揮されることになります。

実際のところ、AIは私たちの仕事を奪う非道なロボットではありません。むしろ、弁護士や彼らの顧客を支援し、その業務の効率化、生産性改善や費用節減の実現に大きく貢献するツールなのです。eディスカバリは、機械学習テクノロジーが広範囲に使われた最初の法務における実践領域でした。そして、今日もAIの変革をけん引する役割を継続しています。ただし、弁護士に取って代わるためではなく、弁護士の業務の効率と実効性の向上を目的とした変革です。

Note: 日本国内において、Insight Enterpriseサービスは現在準備中です。

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